紙の本 vs 電子書籍の価格比較: あなたは、電子書籍は紙の本よりも安いと思いますか?以外なことに、この答えはあまり見つけることはできません。電子書籍の登場以降、さまざまな話題を読んでいる「紙の本と電子書籍の価格比較」、この記事で徹底析していきます。
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電子書籍は紙の本よりも本当に安いのか?
2012年11月に黒船襲来と騒がれたKindleストアが日本に開始して以来、3年半が経過しました。その後、「読める本が少ない」「読みづらい」「やっぱり紙の本」など、さまざまな批判の対象にさらされてきた電子書籍です。
電子書籍の利点は少なからずありますが、その最も大きなインパクトは紙の本よりも「安い」価格設定です。紙の本は独占禁止法の例外である、俗に「再販価格維持制度」と呼ばれる規定(公正取引委員会 質問コーナー)で書店では定価販売されています。しかし、電子書籍はこの対象ではありません。
当初、これまでの価格設定が安値の販売で壊れることに躊躇した出版社が多かったと言われます。しかしその後、電子書籍はコミックとスマホ、それに無料や割引キャンペーンを引き金に大きく伸びていると言われます。
では、実際に紙の本と電子書籍ではどれくらいの価格差があるのでしょうか?
紙の本と電子書籍の価格比較: どうしらた比較できる?
Kindleストアには、現在400万冊以上の日本語Kindle本のタイトルがあります。全ての価格を比較するのは、データベースを持っているAmazonに任せるとして、なにか良い方法がないか考えました。
分析するのに十分な数で、しかも多すぎず少なすぎず、分かりやすいものは何かと・・・。
そこで登場するのはKindleストアで一番目立つのは、Amazonのランキングです。しかし、これではキャンペーンの有り無しや、その時の価格設定で一時間ごとに変動してしまいます。
では何かと考えて、「日販」の「2016上半期ベストセラー(集計期間:2015.11.27~2016.5.25)」を採用しました。この中から、特に9つのジャンルについて調査の対象としました。
でも、なぜ日販のランキング?
日販のランキングを採用した理由
では、日販のランキングを紙の本と電子書籍の価格比較に採用した理由を説明します。驚くことはなにもなく、ほとんど正当な内容です。
- 国内で一般に認められたランキングである
日販は日本最大の書籍取扱高を誇る取次会社です。このため、日本の書籍販売の大きな割合を対象にしており、高い信頼性に裏づけられたランキンクだと考えられます。
- 紙の本だけの売上を対象にしているため比較が明確である
日販のランキングは紙の本を対象にしています。したがって、電子書籍で頻繁に開催される割引率などキャンペーンの対象とはならない販売数から集計されています。これとKindleストアの2016年6月30日付けの実際の価格を比較しました。
- 電子書籍のようなキャンペーンが全く無い
もちろん、最近は無料や割引キャンペーンが頻繁に開催されています。通常の価格よりもさらに割引の価格設定をしたポイント50%還元キャンペーンなどがそれです。今回は、大幅な割引率のキャンペーンはない期間での調査です。
電子書籍のキャンペーンは、多くの場合期間限定で、気がついた時はに終了していたということも少なくありません。であれば、通常の価格帯で、キャンペーンの対象となるような期間限定の戦略的な価格設定ではなく、日頃の価格帯で比較してみたいと思いました。
では、その内容を見ていきましょう。
紙の本 vs 電子書籍の価格比較 2016: 電子書籍は紙の本よりも本当に安のか?
1、2016年上半期の総合ベストランキング20
上の集計表を御覧頂いてお分かりいただけるように、上位17まで(85%)が電子版をKindleストアで販売しています。下位18位から20位までは紙の本のみの販売です。
紙の本と電子書籍の価格差
総合ランキングでは、紙の本の価格帯は900円弱から2,000円の幅に収まってます。
Amazonは、出版社に対して電子書籍の価格を紙の本と同じかそれ以下にするように求めています。しかし、実際に価格を決めるのは出版社です。これは、とても興味のある出発点になります。
総合ランキングでは、上位20のランキングの内の17が電子版を販売する中の14(82%)が割引価格で販売しています。これは、上位20位までの70%にあたります。
電子書籍の価格帯は、紙の本の価格に対して10%又は20%の一率の割引率で設定されているものが少なからず見受けられました。また、これ以上の30%台や40%台もの割引率のものも見受けられました。
電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
電子書籍の価格は紙の本と同じかそれ以下になっていること確認できました。Amazonはここから様々なキャンペーンを出版社と交渉しながら開催しています。日替わりセールや月替りキャンペーンなどがそれです。
もちろん、出版社独自のキャンペーンも少なからず行われています。この際に、Kindleストアの「価格」を変更することもありますが、最近は「ポイント還元セール」と銘打って、価格とは切り離してポイントを付与するかたちで割引キャンペーンを行うことが多くなっています。
Amazonの「ポイント」とは、Amazonが販売する商品の購入時に記載されたポイントが付与され、次回のワンクリック購入時に自動的に価格に対して1ポイントが1円として割引が適用されるものです。
2016年6月30日現在、紙の本に対して割引価格で販売しているものには、Kindleの電子書籍の価格に対して一律20%のポイントが付与されています。
これに対して、紙の本よりも割引価格を設定していないか、していても割引率が数%と低いような場合には、ほとんどの場合にはポイントによる割引が設定されていません。
紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
ポイントが設定されていても、それが使われなければ割引とはいえません。しかし、Kindleの電子書籍は必ずワンクリックで購入することになっていますので、それが使われるタイミングは比較的短期間で利用される頻度も高いと考えられます。
そこで、紙の本の定価とKindleストアの価格に加えてポイントも同時に考慮して実質的な割引として扱ってみます。
すると、電子書籍が販売されている17の内、割引価格が特に低い3つを除いた14の電子書籍が高い割引率(20%から57%)で販売されていることが分かりました。
この結果、総合ランキング20では、電子書籍の価格帯は(特に割引率が低い「正義の法」を除いて)600円から1200円の幅に収まっています。
2、単行本ビジネス
総合ランキング以外は上位10までのランキングになります。少ないながらも、紙の本と電子書籍の価格差がそれぞれのジャンルのベストセラーに対してどう影響しているのかをうかがい知ることができます。
「単行本ビジネス」のジャンルでは、全ての書籍が電子版をKindleストアで販売しています。紙の本の価格帯は1400円から1700円程度です。
紙の本と電子書籍の価格差
紙の本と電子書籍の価格は、3つが7%から10%という低い割引率に留まります。それ以外は19%から43%と、電子版に対して高い割引率を設定してきています。
電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
紙の本と電子書籍の価格差にばらつきがあったのに対して、面白いのは上位10のランキング全てが20%のポイント付与設定を行っている点です。
紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
一律20%のポイント割引があるため、このジャンルでは最低でも28%の割引率となっています。また、「超一流の雑談力」では電子書籍の割引率が43%と高く設定されているため、全体の実質割引率は54%と紙の本の半額以下で販売されています。
この結果、電子書籍の価格帯は、800円から1100円程度となっています。
3、単行本実用
単行本実用のジャンルでは、上位10の内の4つまでが電子版を販売していません。これらは、主に画像中心の固定レイアウト型で小さい画面には向いていないため、出版社が電子版に躊躇しているのが理由と考えられます。
・紙の本と電子書籍の価格差
紙の本の価格帯は1300円から1500円程度です。電子書籍のある6つについては、紙の本に対して20%から30%の価格差があります。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
電子書籍のある6つのものは、全て一律20%のポイントが付与されています。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
以上を含めて実質的な割引率を集計すると、単行本実用のジャンルでは、紙の本からの割引率が特に低かった「365日のプチプラコーデ」(26%)を除いて37%から45%の実質割引率となっています。
これにより、電子書籍の価格帯は、800円弱から1000円弱となっています。
4、単行本ノンフィクション他
単行本ノンフィクションのジャンルでは、上位10の内の3つが電子版を販売していません。また、電子書籍を販売している7つの内の2つは電子版には割引価格が設定されていません。さらにもう一つは、7%のみの価格差にとどまっています。
電子書籍と比較の対象となる紙の本の価格帯は、1000円から2,000円程度です。
・紙の本と電子書籍の価格差
大きな割引率が適用されているのは4つのみですが、20%から46%までの割引となっています。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
電子書籍を販売する7つの内5つまでが一律20%のポイントを付与しています。電子書籍が割引価格になっていない小保方晴子さんの「あの日」にも20%のポイントがついています。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
紙の本と電子書籍に価格差があるものは、20%の一律ポイントの付与で36%から57%までの割引率となっています。しかし中には、全く価格差のないものもいくつかあります。
この結果、電子書籍の実質的な価格帯は(割引率が特に低い「正義の法」を除いて)400円半ばから1200円程度となっています。
5、新書ノンフィクション
新書ノンフィクションのジャンルでは、上位10の内の3つに電子版がありません。このジャンルの紙の本の価格帯は、800円から900円程度です。
・紙の本と電子書籍の価格差
電子版がある7つの内、4つが紙の本からの割引率が10%以下です。それ以外は、29%から43%までの割引率を採用しています。大きく2つのグループに分けられるようです。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
このジャンルでも、電子版のあるものには一律20%のポイント付与があります。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
紙の本と電子書籍の価格差と一律20%のポイント付与の結果、実質的な割引率は21%から54%までとなっています。
この結果、電子書籍の実質的な価格帯は400円弱から700円程度になっています。
6、単行本フィクション
単行本フィクションのジャンルでは、上位10の内の2つに電子版がありません。紙の本の価格帯は、1300円から1600円の範囲です。
・紙の本と電子書籍の価格差
電子版のある8つの内、5つが20%から28%までの割引率になっています。それ以外の3つは、価格差がないか10%に留めています。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
8つの電子書籍の内、一つを除く全てで20%一律のポイント付与があります。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
以上の紙の本と電子書籍の価格差とポイント一律付与により、実質的に、電子書籍は20%から42%の割引率になっています。ただし、一つの電子書籍「業物語」には全く割引がありません。
この結果、このジャンルの電子書籍の実質的な価格帯は、800円から1300円程度になっています。
7、新書フィクション
単行本フィクションのジャンルでは、上位10の内の4つに電子版がありません。紙の本の価格帯は700円から1000円の間です。
・紙の本と電子書籍の価格差
電子版のある6つの内、1つの割引が7%と低く設定されています。それ以外は、15%から43%の間に設定されています。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
電子書籍のある6つは全てで20%一律のポイントが付与されています。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
紙の本と電子書籍の価格差は、ポイント付与を含めると実質的には26%から54%の割引率になっています。
この結果、「新書フィクション」の電子書籍の実質的な価格帯は300円から700円弱になっています。
8、文庫
上位10の内の4つに電子書籍がありません。紙の本の価格帯は、600円から800円程度に設定されています。
・紙の本と電子書籍の価格差
文庫のジャンルの電子書籍には、高い割引率が適用されていないようです。一つが20%ですが、それ以外が0%から7%となっています。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
一つを除き、20%のポイントが一律に付与されています。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
文庫のジャンルには電子書籍の価格はあまり低く設定されていませんが、一律20%のポイント付与により実質的な割引率は21%から36%までとなっています。これは、もともとの価格帯が低いため利益率も低く、割引率を低く設定しているためと考えられます。
この結果、「文庫」ジャンルの電子書籍の実質的な価格帯は、400円から600円半ばになっています。
9、コミック
コミックは上位10位全てに電子書籍版があります。紙の本の価格帯は400円から500円の間と、他の書籍に比べて低いのが特徴です。
・紙の本と電子書籍の価格差
もともとの紙の本の価格が低く設定されているためか、電子書籍の価格は紙の本に対して7%の割引となっているものがほとんどです。一つだけ例外で10%です。
・電子書籍のポイント等のキャンペーン割引
コミックの電子版の全てに対して20%のポイントが付与されています。
・紙の本と電子書籍の実質的な価格差(割引率)
電子書籍の価格の設定は紙の本に対してあまり低くは設定されていませんが、ポイント付与の効果で26%程度紙の本よりも低くなっています。
この結果、「コミック」の電子書籍の実質的な価格帯は、320円から400円の間になっています。
・コミックジャンルの特徴
最近の調査によれば、日本のコミック市場の4分の1はすでに電子書籍となっています。(ついにキャズム超え–コミック市場の4分の1は、すでに電子書籍になっていた)これは、日本の電子書籍市場のリード役となり出版業界の不況脱出に大きく貢献しているという意見もあります。
この売上の大幅な増加は、コミックのジャンルで常に行われている無料や割引価格のキャンペーンです。調査の段階では大きなキャンペーンは実施されていませんでした。このため、通常の割引価格帯の結果になっているようです。
紙の本と電子書籍の価格比較まとめ
紙の本の定価と電子書籍の実質的な価格を比較したものをまとめると、以下のようになります。
結論:
日販の2016年上半期のランキングを分析した結果、以下の様な点が分かりました。
- 割引率は「2割3割は当たり前」で、「4割以上もざら」に見つかります。
- 2016年上期のベストセラーのほぼ全てのジャンルで電子化が進んでいます。
- 電子化された紙の本には、一部の例外を除いてほぼ全てで割引価格やポイント付与が設定されています。
- ランクインが多く割引率も高いのが目立ったのは、幻冬舎、文藝春秋、ダイヤモンド社、双陽社など。
- 電子書籍がないのが目立った大手出版社は、集英社、講談社、新潮社。
- 割引率が特に低いのが目立った出版社は、講談社とKADOKAWA。
- コミックには他のジャンルにはない特徴がある。集英社が特に強く講談社がそれに続く。このどちらも、他のジャンルでは電子書籍を出していない例が目立つ。
- フィクション、ノンフィクションと文庫のジャンルで電子書籍がない(全体の20%から30%)のが目立つ。
無料電子書籍: キンドルストアの歩き方
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